カスタマーハラスメント対策ガイド|企業が今すぐやるべき5つのこと
笠原 雄一
弁護士(愛知県弁護士会所属)
「土下座しろ」「ネットに書くぞ」「誠意を見せろ」——。
近年、顧客からの理不尽な要求や暴言、いわゆる**カスタマーハラスメント(カスハラ)**が社会問題化しています。
本記事では、カスハラの定義から企業の法的義務、具体的な対策まで、弁護士の視点から解説します。
1. カスタマーハラスメントとは
厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(2022年)では、カスハラを次のように定義しています。
「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」
つまり、正当なクレーム(商品の不具合に対する交換要求など)はカスハラではありません。問題となるのは、要求内容が不当な場合、または要求自体は正当でも手段・態様が不相当な場合です。
カスハラに該当しうる行為:
- 暴言・侮辱・人格否定
- 土下座の強要
- 長時間の拘束・居座り
- 繰り返しの電話・来店
- SNSへの晒し・脅迫
- 合理的範囲を超えた金銭要求
- 従業員の解雇要求
正当なクレームの例:
- 不良品の交換・返品要求
- サービス不備への改善要求
- 説明不足に対する説明要求
- 適切な謝罪の要求
- 再発防止策の要求
2. 法律の動向——東京都条例と国の法制化
カスハラ対策をめぐる法整備は急速に進んでいます。
2022年2月|厚労省カスハラ対策マニュアル公表
企業向けの対策マニュアルを公表。カスハラの定義、対応方針の策定、従業員への配慮措置などを示しました。法的拘束力はないものの、企業の対策指針として広く参照されています。
2025年4月|東京都カスタマーハラスメント防止条例 施行
全国初の自治体条例として注目を集めています。顧客等による著しい迷惑行為の防止を目的とし、事業者に対策を求める内容です。罰則規定はありませんが、他の自治体への波及が予想されます。
国レベルの法制化|労働施策総合推進法の改正
厚労省の労働政策審議会で、パワハラ防止措置(2020年義務化)と同様に、カスハラ対策を事業者の義務とする法改正が議論されています。法制化されれば、対策を講じない企業は行政指導の対象となる可能性があります。
法律の義務化を待つのではなく、今のうちに対策を整備しておくことが、リスク管理の観点から重要です。
3. 企業の安全配慮義務とカスハラ
カスハラ対策の法的根拠として重要なのが、安全配慮義務(労働契約法第5条)です。
「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」(労働契約法第5条)
カスハラによって従業員がメンタルヘルス不調を発症した場合、企業が適切な対策を講じていなければ、安全配慮義務違反として損害賠償責任を負うリスクがあります。
実際に、顧客からのハラスメントが原因で従業員がうつ病を発症し、企業に安全配慮義務違反が認められた裁判例も存在します。「お客様からのことだから仕方ない」では済まされないのです。
4. 今すぐやるべき5つの対策
01. カスハラ対応方針の策定・周知
「当社はカスタマーハラスメントには毅然と対応します」という方針を明文化し、店頭掲示やWebサイトで公表します。これだけでも抑止効果があり、従業員に「会社が守ってくれる」というメッセージになります。
02. 対応マニュアルの整備
「正当なクレーム」と「カスハラ」の判断基準、初期対応の手順、エスカレーション(上長・弁護士への引き継ぎ)基準を文書化します。業種・業態によって遭遇するカスハラの類型は異なるため、自社に合った内容にすることが重要です。
03. 従業員研修の実施
マニュアルを作っても、現場で使えなければ意味がありません。カスハラの見極め方、初期対応のセリフ、記録の取り方、エスカレーションのタイミングを、ロールプレイング形式で実践的に学ぶ研修が効果的です。
04. 相談窓口・報告体制の構築
カスハラが発生した際の社内報告フロー、相談窓口(社内・社外)を整備します。「誰に言えばいいかわからない」という状態を解消し、一人で抱え込ませない仕組みを作ります。
05. 弁護士との連携体制の確保
悪質なケースは、速やかに弁護士に引き継げる体制を確保しておくことが重要です。弁護士名義の警告書一通で解決するケースも多く、従業員を矢面に立たせ続ける必要がなくなります。
5. 弁護士に相談すべきタイミング
以下のような状況になったら、弁護士への相談を検討してください。
- 暴言・脅迫が繰り返されている
- 従業員がメンタルヘルス不調を訴えている
- 「弁護士に相談する」「訴える」と言われた
- SNS・口コミサイトに事実と異なる内容を書かれた
- 金銭要求や不当な値引き要求がエスカレートしている
- 社内の対応だけでは解決が見込めない
早期に弁護士に相談することで、問題が大きくなる前に解決できるケースが多くあります。「まだ弁護士に相談するほどではない」と思っている段階こそ、実は最適なタイミングです。
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